神鳥の卵

第 33 話

ギアス。
その言葉だけで場の空気が一変した。
ギアスを呪いだと・・・最終的には願いだと受け入れはしたが、やはり悪しきものだと考えているスザクの変化は顕著だった。

「ギアス、まだ残ってるのか」

ラウンズだった頃を思い出させる、殺意の籠った低い声だった。とはいえ、ナナリー以外の人間には慣れたもので誰も気にしなかった。ナナリーはといえば、ギアスは願いだというスザクとルルーシュの解釈を聞いてからそこまで拒絶はしなくなっていた。ギアスも銃火器も大して変わらない。目に見えた証拠が残るかどうかぐらいだろう。

「相手のギアスはまだ確定していない」

そう前置いてからルルーシュは言った。
その手にはチェスの駒。
彼の前にはチェス盤が置かれており、彼にしか分からない配置がされていた。ゲームとしての配置ではなく、彼の思考を反映させたものなのだろう。あるいはまったく意味のないものなのか。こういうときルルーシュの心の声は聞こえない。完全に、心を閉ざしているのだ。

「だが、この相手は勝利確率が落ちた瞬間に手を引くことは確定している」
「勝率確率?」
「そうだ。相手の戦力、配置を考えれば、今までに何度も襲撃できた。だが、俺はそれを察知し先手を打つ」

ことり、と黒のキングが盤面に置かれた。

「先手と言っても些細なことだ。たとえば、敵を引き連れたお前たちがこの屋敷に戻ってくる時間に合わせ、アーニャに11時の方角にあるドローンを破壊した後、3時の方角で待機させる。モルドレッドの格納庫付近だが、相手はそれを知らないはずだ。お前たちが私道に入るタイミングで警察が国道の巡回を始める。事前に不審車両を見かけたと通報すれば、元皇族であるナナリーの居住区だから警察もすぐに動く」

ことり、と黒のポーンが前進した。

「たったそれだけだ。だが、敵はそれを察知すると迷うことなく退散する。相手はKMFも用意し、武装兵士を隠し準備万端にしているのにだ。多少の戦闘は覚悟しているはずだから、普通に考えれば何の障害にもなりはしない」
「KMFも用意してるの?」
「間違いありません。確認できただけでも5騎、近くの山林に配置されていました」

ジェレミアが淡々と情報を告げた。

「それ、すぐ潰した方がいいんじゃないの!?」

なんでわかってるのに放置してるのよ!と、カレンは言うが、向かおうとすれば即撤退するから労力の無駄だと返された。つまり、何度か試みているのだろう。まるでだるまさんがころんだだ。こちらが見れば相手は動きを止め、こちらが近づけば撤退する。終わることのないいたちごっこ。
動ける戦力が限られている以上、深追いはできない。
こちらが大きく動けば撤退させることも可能だろうが、捕まえることは難しい。これだけ気配に敏いのだから、簡単に包囲網を抜けられる可能性が高く、次に姿を見せるときにはもっと面倒なことになる。それなら、コントロールしやすい今の状態を維持するほうが楽なのだ。

「KMFが何騎来ようとアーニャとジェレミアがいれば問題はない」

あいてはそれも理解しているのだろう。だから警察や、場合によっては黒の騎士団に通報が行き警戒が高まることを嫌がっている。敵の撤退成功率が確実に下がるからだ。
だが、本来それに敵が気が付くはずがない。
ドローンが撃ち落とされるのはもはや日常茶飯事。
アーニャはここに住んでいるのだから、どこにいてもおかしくはないし、格納庫の近くにいることも普段からよくあることだ。警察が巡回しているのもいつものことだし、巡回時間は決まっていない。
同じような行動であるにも関わらず、こちらが意図して動いたときにだけ相手も動く。

「問題は、漏れるはずの無い情報が漏れ、気付かれるはずのない策が知られ、その結果として敵が撤退していることだ」

何度も何度も手を変え品を変え、相手を捕縛しようとしたが全て失敗。100%逃げられる。兵士の一人も捕まえられない。ここまでくると普通の相手だと考えるほうが難しい。この世界にはギアスという異能がある。ならば、超常の手段で情報を得ていると考え行動したほうがいい。異能相手に常識の範囲内で行動すれば敗北が決定してしまうのだから。

「100%確実に逃走できる状況を今も作っている相手だ。100%成功する状況になるまで手は出してこないだろうが、いい加減相手をするのも飽きてきた」

飽きたというより、万が一ルルーシュが敵の動きに気づかず・・・いや、何かしらのミスを犯せばスザクもナナリーも危険にさらすことになる。できればみなに知られずに、ジェレミアとアーニャとギアスの効かないC.C.だけで片をつけたかったが、これ以上繰り返しても意味はないだろうと判断した。
だから、こうして回りくどく説明をしているのだ。

「でも、相手のギアスってどんなやつなの?」

カレンは頬杖をつきながら尋ねた。そもそも、ルルーシュの絶対遵守以外知らないし、あとはC.C.が不老不死ということぐらいしかコードとギアスの事は知らないのだ。普通に考えればありえない非科学的な魔法。ほかにどんな事が出来るのだろうか?

「まさか、君のような?」

スザクが思わず詰め寄る。

「そうならもっと簡単だったんだが・・・恐らくは未来視だな」
「未来?」
「予知と言ったほうがわかりやすいか?ビスマルクも、未来を見ることが出来た」

かつて最強と言われた騎士の名に皆口を閉じた。

「ビスマルクが持っていた未来を見るギアスは、ほんの数秒先を見ることが出来るのもだったが、特に制限はなく、常に使用出来たという」

C.C.の情報が確かなら、ロロのように使用する時間の制限なく、いつまでも発動できた。右目と左目で見えるものが変わってしまうため普段の生活に支障が出ることもあり、よほどのことがない限りは封印していたと言う。

「おそらく、敵のギアスは常に先を見れるわけではない。特定の事象に対し情報を得る物。作戦が成功か失敗か。危険か安全か。そういった成否の判定を得て指示を出している可能性が高い」

あくまでも可能性の一つ。だが、そのぐらい厄介な異能だと皆に伝えることで、警戒心をあげることはできる。それだけで十分。

「それで、どうする?」

この状態を維持しないというなら、こちらから打って出るということだ。

「敵は必ずこちらが行動を起こしてから対処をする」

常に後手。それは変わらなかった。

「それで?僕は何をすればいい?」
「スザク、お前は敵につかまれ」
「「「は!?」」」

正体を知られないため、捕まらないために今まで苦労していたのに?
あっさりと出された内容に、一同は驚きの声をあげた。


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最強騎士たち相手に戦える敵をどうしようかなと思ったら復活に丁度いい戦力が出ましたよね。すざっくんのストーカーになるのは彼以上の適任者はいない。
ルルーシュの言葉を普通に書き始めたせいで幼児設定もどこかに消えた気がする・・・赤ちゃんのままにするんだった・・・

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